第四章 走れミオ! その愛を信じるなら

第40話 大・大誘拐

わるもn

真太郎が振り返った。

「なんですかそれは」

「だから、その、つまり誘拐っていうか」

口ごもる水戸に、真太郎は疑りの目で、

「誰が誘拐されたんですか」

「テラさんの楽屋にあった、レッドの人形だ」

みるみるボリュームが落ちてゆく言葉に、真太郎は心底うんざりとした顔になる。

「そういうのは盗難って言うんでしょうが。だいたいあんなもの盗む人いるわけないでしょ」

「あんなものとは何だよ」

「僕はね」

真太郎は歯を食いしばる。

「今、それどころじゃないんです」

「なんだよ。お前、なんかちょっとおかしいな」

水戸はあらためて真太郎をしげしげと見た。

「どうして女って、危険な方へ危険な方へ、ガケの方へガケの方へと行こうとするんですか」

真太郎はすっかりやけになっていた。

「なんだよ急に」

真太郎は体当たりでもする勢いで、

「教えてもらえませんか。安全なのと、危険なの、どっちがいいんですか。聞くまでもないと思いますけど、長い人生を加味すれば、どう考えても前者でしょう。なのにどうして危険な方へガケの方へと行ってしまうんですか」

「お前の言ってることがなんなのか全然わからないけど」

怪訝な顔の水戸に、真太郎はしばらく押し黙ったあと、

「すいません。全部独り言です。水戸さんに聞いたわけじゃありません」

水戸は少し黙ったあと、わざと目をそらすようにして、

「安全なのが一番だよ」

真太郎が顔をあげる。

「ショーだって、危険っぽく見せてはいるけど、実際は安全なんだ。どんなにすごい見せ場だって、絶対に安全じゃないかぎりは絶対にやることはないんだから。俺たちの中には危険ってのはないんだ。それが俺たち、セフティの役目なんだ。わかったか」

「わからないです」

「だからな、セフティになって一番最初に叩きこまれることはな」

再び声を荒げそうになった水戸をさえぎって、

「もういいです。わかりました。すいませんなんでしたっけ? レッドの人形ですよね。盗まれたっていうのはどういうことですか」

水戸は声を潜めて、

「昨日、いつもの通りテラさんの楽屋の掃除に入ったんだよ」

そう言うと、泣きそうな顔になって、

「なかったんだ。人形が」

「聞いたんですか。テラさんに」

水戸は頷きながら、聞いた。と力強く言った。

「なんて言ったんですか」

「どうしたんですか? って聞いたら」

「はい」

「そしたら、うん。まあ、って」

「え?」

「うん、まあ、だぞ? 取り乱してる感じじゃないし、すごいさらっと、うんまあって」

「家に持って帰ったんじゃないですか」

「違う」

水戸は何度も首を振る。

「どうして違うってわかるんですか」

「家に持って帰ったんなら家に持って帰ったって言うだろうが。それが、うんまあだぞ。すごく元気なくうんまあだぞ。だいたいずーっと置いてあったものをわざわざ持って帰るかよ」

「そういうこともあると思いますけど」

「ネコ飼ってるんだよ」

「ネコ? テラさんがですか?」

真太郎は素っ頓狂な声をあげた。

「もって帰ったら、ネコにかまれてぐちゃぐちゃになっちゃう」

「しまっとけばいいじゃないですか」

「前にもあったんだ。引き出物がぐちゃぐちゃにされたって言ってた」

「テラさん、ネコ飼ってたんだ」

「一人暮らしで寂しいんだよ」

肩を落としている水戸に、

「どうして盗まれたって思うんですか」

「いいか。テラさんが大事にしてたもんなんだぞ」

水戸が言いながら詰め寄りってくるので、真太郎はのけぞり気味に、

「それはなんとなくわかりますけど」

「貴重品ってことだ」

「いや貴重品なら、あんなのより、あそこには一点ものの怪人のコスチュームがいっぱいあるじゃないですか。そういうものの方が、あんなぼろぼろの首なし人形なんかよりずっと貴重ですって」

水戸はまたも紅潮して、

「ぼろぼろっていうんじゃないよ。頼むよ。なるべく早く」

水戸は深く下げた頭をあげざまに、

「スペシャルステージ終わるまでになんとか」

「その、期限を切るのやめてもらえませんか」

真太郎は無表情につぶやいた。